夏になると思い出す話。

お盆休み前になると、Oさんのことを思い出す。

私は今の会社に派遣社員として勤務しはじめてもうすぐ5年になる。

私のいる部署に私のあとに来た派遣は、なぜか続かない。みんな数ヶ月で辞めていく。

正社員も、私のいる部署に異動してくるとみんな身体をこわして休職したり退職したりで、どんどん人が減っていく。なんでだろう。

 

Oさんは、私がこの部署で働きはじめた約1年後に入社した、派遣社員としてははじめての後輩だった。この職場では後輩だったけど、Oさんは私より15歳くらい年上で、なんと、私が新卒で正社員として入社して解散して退職した元職場でも働いていたのだ。Oさんは、私が入社する15年前の設計部で私の元上司から依頼される手描きの営業図面やパースに着色する仕事(今でいうCADオペレーターみたいなもんかしら)をしていた人で、Oさんが派遣でうちの部署に入ってきたときは、元職場の昔の上司や先輩の話で盛り上がったし、はじめての派遣の後輩で、元職場の先輩(かぶってないけど)だったので、当時私はOさんのことをいつも気にかけていたような気がする。

私のいる部署では、派遣も総合職の正社員と同じ業務をしていて、Oさんはこの職場での仕事内容の複雑な詳細設計がむずかしくて悩んでいたみたいだった。Oさんとか、Oさんのインストラクターの先輩(正社員)のMさんから私は当時そんな相談を受けていたと思う。

私は割とテキトーなところはテキトーな性格なので失敗してもあまり気にしないほうなのだか(←気にしろ)、Oさんは真面目な性格で、Oさんが入社して半年ぐらいたった頃、Oさんは体調まで壊してしまったのだ。色んな病院に行って、精神的なものかもしれないので、精神科や神経科心療内科とかも行ったそうだけど症状は治らなくて、結局Oさんはそのまま退職してしまった。

 

 

 

 

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Oさんが退職した翌年の夏、ちょうどお盆休みに入る前の週に、突然Oさんからメールが届いていたのだ。

病気の症状はほとんど回復してきた。今は東京で治療していて、お盆前に大阪に帰るからランチでもどうですか?という内容だった。

 

メールに気付いたのは会社からの帰り道で夜遅かったけど、Oさんに電話して、ランチの日程を決めて、ひさしぶりに元気なOさんの声をきけたのに、電話を切ったあと私は不穏な気分だった。ひっかかることが2つあったのだ。

 

 

まずひとつ目。(←半沢部長風)

私「どんな病院に行ったら治ったんですか?」と聞いたら、

Oさん「病院じゃないんですよ。お医者さんじゃない先生に治してもらったんです。どんな先生に治してもらったかは、ランチの時に話しますね。」

と言われたこと。

 

ふたつ目。

私「みんなOさんどうしてるかな、体調治ったかな、って言ってましたよ。ランチ、部署のみなさん連れて行きますね。」

Oさん「あの……、私事情があって頭を坊主にしたんですよ。(←超ロングやったのに!)それで今めっちゃ短くて恥ずかしいので、Tさん(私)とMさん(Oさんのインストラクターだった正社員の先輩)だけで来てください。」

 

 

そして、仕事が原因で体調を崩して辞められたのに、なんで急に会いにきてくれる気になったんやろう……。(←3つだった。)

 

 

 

医者じゃない。坊主……。

 

 

 

なんかおかしい…… こわいなあ…… イヤやなあ…… と思ったものの、

私はなぜかそれらの懸念点を先輩のMさんに報告しないまま、3人でのランチをむかえた。

 

 

 

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当日昼休み、予約したお店の前で待つ黒のキャップ姿で、両手に大きな紙袋を持つ Oさん。

 

店内に入ってキャップをとったOさんに

 

 

Mさん「わあ!Oさん!ベリーショートにしたんやね!」

 

 

 

私「(ていうか、ちょっと伸びた坊主……。)」

 

 

 

 

Mさん「Oさん元気そうでよかった!東京で治療したってTさんに聞いたけど、どんな病院に行ったの???何科?」

 

 

 

 

Oさん「病院で、お医者さんの先生に治してもらったんじゃなくて……」

 

 

 

Mさん「えっ、そうなん?(←興味津々)」

 

 

 

 

Oさん「じつは……」

 

 

 

 

私「(ゴクリ……。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Oさん「霊媒師の先生に治してもらったんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

私「(やっぱりかーーーー!!!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあとのOさん(とMさん)の話によると、

  • 霊媒師の先生がOさんのおでこに手をあてると、フッ……と症状がなくなる。
  • おでこのフッ……は週イチのペースでやってもらっている。
  • Oさんは東京でその霊媒師の先生の自宅近くにアパートを借り、毎日霊媒師の先生の自宅に通い、修行(という名の家政婦業を無給で)している。
  • 霊媒師の先生の家では、出汁は市販の細粒状のものではなく、にぼしや昆布からとらなくてはならない。
  • Mさんも健康のため出汁はにぼしからとっている。
  • 霊媒師の先生曰く、Oさんの病は、感謝が足りなかったことが原因。今までお世話になった人すべてに感謝することで、Oさんの体調はもっと回復する。

 

 

 

 

ひととおりOさんが話し終わったあとの食後、

 

Oさん「体調不良とはいえ、急に辞めてしまったので、これはお礼です。部署のみなさんで召し上がってください。みなさんにどうか、よろしくお伝えください。」

 

と、大量のお菓子(Oさんが両手にもっていた大きな紙袋)を手渡してくれたOさん。

 

 

私「(そういうことか……。霊媒師の先生に言われたから、感謝しに来てくれたのか……。)」

 

 

 

 

失業手当をもらってる身なのに……

Oさん「今日は私にごちそうさせてください。(←必死に感謝しようとしてくれる)」

 

 

Mさん「やめてください。困ります」

 

 

(しばらくOさんとMさん、おごるおごられないバトル……)

 

 

 

 

 

私「(白目)」

 

 

隙をみて私は3人分のランチ代をお会計。

お店の外でOさん、Mさんからランチ代回収。(割り勘完了。)

 

 

Oさん「もうTさん……。ごちそうしようと思ったのに。」

 

 

 

 

そのあと、Oさんとの別れ際に

 

Mさん「Oさん、体調治ったんなら、是非戻ってきてくださいよ。」

 

 

 

私「(えっ、Mさん? この一連の話を聞いたのになんでや……)」

 

 

 

Oさん「いえ。私にはむずかしい仕事です。無理です。(きっぱり)」

 

 

 

 

私「(ほっ……。)」

 

 

 

 

 

 

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Oさんと別れたあと

 

Mさん「霊媒師とか修行とか聞いて大丈夫か心配したけど、Oさんすっかり元気だったし、よかったね。いい霊媒師もいるんだね。人生いろんなことがあるね。」

 

 

 

私「……。13時からの会議、A会議室でしたね、確か。(話題転換)」

 

 

 

それ以来、Oさんとは会っていない。連絡もとっていない。

でもちょっと心配。

お盆休み前になるとOさんのことを思い出す。

 

 

人生いろんなことがある。

そしてまた、この職場の人間は減っていく。

 

 

 

 

 

(おしまい。)