はじめに
音楽劇『海王星』のプレイリストを毛皮のマリーズとドレスコーズの楽曲でつくりました。
このプレイリストは、劇中での19曲の曲目どおりに毛皮のマリーズ、またはドレスコーズの楽曲をあてていますが、この曲が似ている、近い、という類似曲リストを目的としたものではありません。
劇中では、たしかにドレスコーズや毛皮のマリーズの作品が浮かぶ楽曲もありますが、音楽監督志磨遼平(ドレスコーズ)の「今のぼくが持ちうる全てのアイデアを今作に捧げます。」という開幕前の意気込み通り、いや、それ以上にこの音楽劇の19曲のどれもが、これまでの志磨遼平のキャリアのどの作品よりも進化したものとなっています。
音楽監督志磨遼平(ドレスコーズ)は、控えめに言って天才だと思います。
毛皮のドレスで海王星
235の「毛皮のドレスで海王星」をApple Musicで
以下、ライナーノーツです。
M1 _ ラプソディ・イン・ザ・ムード
序曲【ブルース】
vocal:ブルースを唄う老婆(中尾ミエ)
『海王星』と同じく、波の音からはじまる哀しいブルース。
ケンさん(福島健一)のフルートが最強。
曲の後半の幕が上がる瞬間が好き。
M2_ AC ボーイ/ DC ガール
酔いどれ船
vocal:酔いどれ客たち
初日はファン目線だと完全にドレスコーズのライブとして観てしまったオープニング。踊り狂う酔いどれ客たちがダンサーに見えてしまった。(ごめん。)だってめっちゃいいところにドレスコーズのステージがあるんだ。ギターリスト志磨遼平。そして、しまのギターソロ。
思わず客席を立ち上がりそうになるのをガマン。
酔いどれ客たちのはっちゃけたダンスがキレッキレで、華やかで、何回観ても見るところがいっぱいで目が忙しい。
パンフレットに掲載された寺山修司の歌詞は、毛皮のマリーズの歌詞だと言われても違和感がない。それはしまが書く歌詞がちゃんと「詩」だからだと思う。
M3_ 大疫病の年に
たし算の唄
vocal:女学生ちゃんたち
女学生ちゃんたちが唄うワルツ。
かわいい合唱なんだけど、なんか毒がある。
あと、増えたよねってところとか。
どっちもちょっとこわい童謡。
M4_ クレイドル・ソング
子守唄
vocal:葉山魔子(松雪泰子)
こわい子守唄。子守唄にしてはハードな内容。
この子守唄でよく育ったな、猛夫。
子守唄って暗いマイナーな曲が多いね。
M5_ センチメントがお好き?
恋する女
vocal:葉山魔子(松雪泰子)
レコードの針を落とすとはじまる魔子さんの歌。ドレスの裾をひらひらさせながら歌う魔子さん。
猛夫が21歳で、彌平さんは47歳。
でも魔子さんの歳は劇中では明らかにされていない。
何歳なんだろう。何歳にも見える。
綺麗な大人の女性に見えるシーンもあるし、恋に恋する少女のような表情のときもある。
そんな何歳の魔子さんの恋にもぴったりな曲。
M6_ towaie
紙の月
ギロからのカ~~~~~~~ッ!!って鳴らすときの神さまがよい。
あのカ~~~~~~~ッ!!っていう打楽器、「ヴィヴラスラップ」っていうらしいよ、調べた。急にトリビア。
一幕でボーイさんアカペラの替え歌あり。(めっちゃ声カッコいい)
M7_ おっさん On The Coner
商売に強くなる法
vocal:熊沢太郎1・2・3
毎演進化するのがこの曲。いちばん拍手喝采の曲。そりゃそうだ、すばらしい。
セールスマンたちかわいいしおもしろい。みんなお仕事がんばってるよね。
熊沢太郎さんたちのダンスで傘閉じたままうねうねする振り付けは雨の日会社でマネしてる。
神さまはバンジョー弾き。
M8_ みずいろ
恋の歌
一幕vocal:灰上猛夫(山田裕貴)
二幕vocal:葉山魔子(松雪泰子)
毛皮のマリーズにはなかった恋の設定。でも純愛ってところでは、よく似ている。
ケンさんのサックスがエロいです。
M9_ すてきなモリー
そばかす
vocal:そばかすちゃん(清水くるみ)
「小鳥と海賊とあたし」という歌いだしを聴いて、“小鳥と私” を選びそうなったけど、モリー。
そばかすちゃん猫ちゃんみたいでかわいい。
歌声も台詞を話す声も、とってもとってもかわいらしい。しかしかなりの悪女。だいぶ悪い。でも寺山さんが描く性格悪いコが好きなんだよな。
M10_ エリ・エリ・レマ・サバクタニ
恋は一枚の夜の羽根
後半vocal:酔いどれ客たち
神さまの舵で歌って踊る酔いどれ客たち。
『ジャズ』ってめっちゃ神さま出てくるよね。
いや、『ジャズ』以外でもでてくるね。『1』とか特に。まさかしまが神さまを演じる日が来るとは…… 。
猛夫さんと魔子さんが手を繋いで階段を駆け上がって、神さまの前に行くところが好き。
神さまの前で愛し合う猛夫さんと魔子さん。
そしてこの曲もケンさんのフルートがよい。
猛夫さんと魔子さんのデュエットのところはフルート吹いてて、酔いどれ客の合唱になるところでサックスに持ちかえるんだよ。
M11_ 悲しい男
わが人生の時
vocal:灰上彌平(ユースケ・サンタマリア)
コーヒーが出てくる歌が好きだ。
彌平が神さまの前を通りながら歌うので、一瞬フロントマン:ユースケ・サンタマリア、ギター:志磨遼平の一瞬バンドみたいな構図になるところが好き。
クリスマスはケンさんがジングルベル弾いてくれたよ。
神さまはアコギ(東京くん・Gibson J-45)。
M12_ さよならベイビー・ブルー
ブルースII
vocal:ブルースを唄う老婆(中尾ミエ)
毛皮ちゃんの浅川マキっぽい歌がどれも海の歌なのは、偶然ですか? それとも運命なのですか? お婆さん。
お客さんに語りかけるように歌う中尾ミエさん。
明るい歌を歌うイメージの歌手、中尾ミエさんにこんな暗い新曲2曲も歌わせたのは、音楽監督志磨遼平(ドレスコーズ)がはじめてではなかろうか。
M13_ 愛する or die
あたしのハレルヤ
無神論者那美さんの歌。
伊原さんが毛皮の愛するor die を歌う妄想。
伊原さんの演技、劇場でもすごく引き込まれるけど、先日の配信で観たアップの演技も凄かった。ネタバレになるからあまり書かないけど、あんな表情をされているなんて、知らなかったよ。すごい女優さん。『海王星』配信でも観られて本当によかった。
M14_ 贅沢とユーモア
結婚式はいいもんだ
vocal:酔いどれ客たち
人生には贅沢とユーモアが必要。
8回結婚して離婚しても、それがみんなを笑わせるユーモアになったらカッコいいよね。
アンナさんの目の下のメイクは、オーケンではなく、8本の涙らしい。
そりゃそうですよね。寺山さんが『海王星』を書いてたときはまだオーケン生まれてないですね。
M15_ 犬ロック
教授の唄
vocal:教授(大谷亮介)
教授(大谷亮介さん)がスタンドマイクで歌うナンバー。教授ロック。犬ロック。教授がおっしゃるには、好きな人と結婚した場合は、ラブドになると思う。
毛皮のマリーズの"LOVEDOGS"をApple Musicで
この曲もフロントマン:大谷亮介、ギター:志磨遼平の構図の瞬間を見逃してはいけない。
M16_ 非・生産的人間
悪口唄
vocal:女学生ちゃんたち
女学生ちゃんたちカッコいいかわいい。
しまって女の子とかアイドルちゃんたちが歌うこういう曲、めっちゃ得意分野な気がする。
今の10代の女の子たちの毛皮のマリーズのコピバン出てこないかな。見たいな。
歌詞カードに載せられないほどの悪口。『海王星』のパンフレットにも載ってないです。
M17_ 20世紀(さよならフリーダム)
海詩瑪
vocal:酔いどれ客たち
劇を観ていないときも、ふとこの合唱を思い出しては泣いてしまう終わりのはじまり、いや、終わりははじまりの歌。さよなら、フリーダム。
千穐楽では涙腺崩壊で、じぶんも酔いどれ船に乗ってる気分になった。そして年末感。
大千穐楽の名古屋は、本当にこの歌詞のとおり。みんな明日からどこに行くんだろう。この日のための、この海王星カンパニーのための特別な歌だと思う。
海詩瑪(かいしば)と読むらしい。どういう意味のことばなんだろう。
M18_ カーゴカルト
毒薬の歌
伊原さんの歌も声もダンスも、素晴らしすぎる。ダンスでピタッとキメた一瞬のポーズも美しくて毎演見惚れてしまう。
那美さんひとりテンポの速い曲で歌ってて、酔いどれ客たちは時が止まっている対比の演出がカッコいい。
神さまのガットギターが好き。カーゴカルトのしまのガットギターも好き。
M19_ JUBILEE
乾杯の歌
vocal:灰上猛夫(山田裕貴)・葉山魔子(松雪泰子)・酔いどれ客たち
乾杯と祈りって似てるね。
祈りってことは、神さまに捧げる歌?
ひさしぶりに聴いたら毛皮のマリーズのラストツアーを思い出して泣いたよ。
毛皮のマリーズは10年前の2011年12月31日に解散。
音楽劇『海王星』東京PARCO劇場千穐楽は2021年12月30日。
魔子さんは運命論を否定されていたけど、私はこれを運命としか思えません。
きっと神さまの舵。神さまのしわざ。
おわりに
「音楽で人は殺せるか」
寺山修司のこの問いの答えがこの音楽劇にはある。
(評)「音楽で人を殺せるか」 その問いに答えてくれる音楽劇:朝日新聞デジタル
この音楽劇で、観客の感情を動かしているのは、台詞ではなく、寺山修司作詞・志磨遼平作曲の音楽だ。
音楽劇『海王星』は、音楽がないと成立しない劇だということが、一度観ただけでよくわかる。
この戯曲が今年まで上演されなかったのは、この戯曲に曲をつけることができる音楽家が存在しなかったからではないだろうか。寺山さんは、いつか上演されることを願ってこの戯曲を遺したのだと思う。
毛皮のマリーズの解散から10年の年に、寺山修司と志磨遼平との時空を越えての共作・音楽劇『海王星』が上演されることは、MARIES MANIA にとってはやはり、運命としか思えない。
音楽劇『海王星』は、この10年のキャリアを積んだ志磨遼平が存在しなければ実現しなかった音楽劇なのだ。