2月某日。今年はじめて、味園ビルを訪れました。
しかし今回訪れたのは、2020年代ではなく、1960年代の味園ビル。
なんと、60年代の味園ビルにタイムスリップしてしまったのです。
60年代の味園ビルに私を連れて行って下さったのは、昨年9月末で営業終了した元ホテル味園の(現在も味園にお勤めの)A子さん。そして、味園の電気部に50年以上勤められているK田課長。当時の味園ビルを知る、そしてしかも私の憧れの電気部の方にご案内いただいた、超スペシャルなタイムトラベルの詳細をレポートします!
今回はじめて記事として明らかになる事実、貴重な写真満載の、味園ファン必見のテキストです!!(興奮のあまり、写真がブレがちなのはご容赦ください……。)
|| ユニバースが地上にあった時代。
私:うわあああああ!!! これが、60年代の味園ビルですか!!!
味園ビル内某所に保管されている模型
K田課長:そう、奥が黒門市場側だね。
私:(しばらく模型に夢中。写真を撮りまくる。)…… 味園の看板も、ユニバースのタテの看板もこのこの頃からあるんですね。
K田課長:昔はアルプス(味園ビルの向かいのホテル)側の壁に電飾もあったよ。
私:うわー!ホントだ。てっぺんにも「ユニバース」って横向きの看板もあったんですかー!
A子さん:黒門市場側からも見てみましょうか。
私:あっ!ビルの中が見える!!
K田課長:この時分はまだユニバースが今の2~4階(スナック街・サウナ・ホテル)部分にあった。
私:うわー!! 天井高い!!! 3層分ってことですもんね! ウワサでは聞いたことがあったんです。「昔ユニバースは地上にあって、天井高 12m の大空間だった」って!
私: 和田アキ子さんとかピンクレディが立ったの、このステージかーーー!!!!
K田課長:あ、天井の電飾も点くよ!(スイッチを ON にして下さる。)
模型のスイッチ。ここから模型の天井裏→壁面に各配線が仕込まれている。(スイッチ萌え)
私:点いたー! 星空みたい!!
私:ミラーボールも回ってる~~~! 芸が細かい~~~(泣)
A子さん:よく見ると向こうの壁側に「TEL」って書いてますね。電話ボックスがあったんですね!
K田課長:そりゃあ、この頃は携帯電話なんかないからね、電話ボックスもあるよ。
私:そういえば、ホテル味園の営業最終日に開催された館内ツアー(※1)でまわったサウナのところにも、電話ボックスみたいな場所があったんですよ。
味園ビルの3階サウナ(※現在は営業終了)にあった電話ボックスと思われる場所。
A子さん:ありましたね!
K田課長:ほかにもビルのいろんなところに電話のためのスペースはあると思うよ。
※1:ホテル味園営業最終日(2019年9月30日)のチェックイン時にいただいたお知らせ。
営業最終日の宿泊客限定サプライズでホテル味園&サウナの館内ツアーとフリマが開催された。
|| 電気部の岡本さん。
私:この模型は、元電気部の岡本工(たくみ)さんが作られたんですよね? 去年ホテル味園の Twitter さかのぼって読んでたときに、この記事(千日前「味園ビル」の歴史をたどる企画展)を見つけて保存してたのですが、この模型はこの企画展のために作られたものですか?
A子さん:企画展のためではなく、元々岡本さんが、全くの趣味で作られたそうですよ。
私:趣味で! 岡本さん、すごい方ですね……。
A子さん:岡本さんは、味園ビルができた頃からの方で、今はお年を召しておられるので現役電気部さんではなくて、私も3回くらいしかお会いしたことがないかなあ……。
私:今でもたま~にいらっしゃる感じなんですね。BMC が出している月刊ビル・味園ビル大特集号の岡本さんのインタビューはもう1000回ぐらい読みました。
【月刊ビル特別号】2011年7月 BMC(ビルマニアクラブ)発行
A子さん:岡本さんって、どのくらいでこの模型作られたんですか?
K田課長:2~3ヶ月ちゃうかな。
私:えっ!!! 2、3ヶ月でですか? ひとりでですよね???
K田課長:半年とかはかかってなかったと思うよ?
私:はーーー!!!
K田課長:でも昔にこの模型作るのはまず、材料から集めなあかんからそれがめっちゃ大変やったと思う。
A子さん:東急ハンズとかないですもんねえ……、当時は。
K田課長:このユニバースの天井細い電飾とか、どこからか細い透明で色付きのプラスチックの棒見つけてきて、天井に電球仕込んで光らせてて……、この太いほうのは鉛筆のキャップを切って使ってるんやと思う。
半球体の先に付いているのが鉛筆のキャップ。
私:キャップ!? ホンマや! ミラーボールも、ミラーを1枚1枚貼り合わせてミラーボールにしてるし、屋上のミラーボールの集合体も回ってますね……。
#味園ビル#ホテル味園#味園ユニバース pic.twitter.com/TLMMUe22PG
— 235 (@235s) 2020年2月12日
宴会場はこの頃から、今もずっと5階なんですね。
5階 宴会天国味園
宴会場の中も細かい! 天井の照明もすっごいな! この模型、プロの建築模型屋さんとか、建築の勉強している学生が見たらびっくりすると思いますよ。
K田課長:岡本さん、電車も作るからなあ。家に電車いっぱいある。
私:あ! ラピート作ってるって、月刊ビルのインタビューで読みました。「ラピートなかなか手強い」って。
ラピート(南海電気鉄道HPより)なんば~関西空港を運行する特急列車。
K田課長:ラピートできてたよ(笑)。しかもどっかに頼まれて貸してたんちゃうかなあ。
岡本さんは、すごい絵心のある人。絵心があって、色んなアイデアが出てくる人やから、好きなんやろうなあ。材料見つけてきて楽しそうに作りはる。
私:しかも2、3ヶ月でとか……、すごすぎます……。
|| 70年代の大改装。
私:この頃のユニバースの床ができて、2階、3階、4階に仕切られたのって、いつぐらいですか? ホテル味園が40年営業していたので、1970年代後半ぐらいですかね。
ホテル味園の従業員の皆さんと宿泊客からの寄せ書き。(ホテル味園のツイートより)
K田課長:こないだ消防の届出を調べてみたら、床ができたのは昭和47年(1972年)やった。
私:調べて下さったんですか! やさしい…… ! ありがとうございます(泣)。70年代前半にはもう床ができてたんですね。
しかしこんな大きな面積を上下階に仕切る床を後から作るなんて、すごい発想だな……。床をぶち抜いて吹き抜けにする改装ならよくあるし、まだ想像もつくんですけど。
K田課長:たぶん社長(味園創業者の志井銀次郎氏)は、いずれユニバースを上下に仕切ることを想定してたと思うんよ。最初からそのつもりやったから、建物の土台とか躯体をやたら頑丈に作らせたんやと思う。
私:はー!!! 見越してたんですね。すごい……。インターネットで味園ビルを調べると、Wikipedia に「設計:志井銀次郎」と書かれていますが、この建物のデザインとか、ホテル味園の客室も社長のデザインでできたということですか?
A子さん:そうですね。今の社長のお父さんの志井銀次郎さんが、ホテルの客室の内装はフランク・ロイド・ライト(※アメリカの建築家・「近代建築の三大巨匠」の一人)のデザインに着想して「こんなん作って~」と指示したみたいです。
私:テレビを乗せて動く台ですよね。
テレビの台が動く!#ホテル味園 #味園ビル pic.twitter.com/z6E63xYv7r
— 235 (@235s) 2019年9月27日
ホテル味園 407 号室のテレビ台付き柱。
フランク・ロイド・ライトがデザインした照明「タリアセン3」
私:確かに言われてみればライトのタリアセン(照明のほう)ぽいかも。でもなかなかこの照明をテレビを置く台にしようと思わないですし、当時はブラウン管のおっきいテレビですよね? それを乗せて動かそうっていう発想もなかなか出てこないですよね?
A子さん:「テレビの向き変えられたらええやん。」ってね(笑)。
私:(初代)社長ってどんな方だったんですか?
K田課長:家に行ったら社長の部屋の壁一面にテレビがずらっと何台もならんでた(笑)。同じメーカーやったら、リモコンで変えたくないテレビも操作してしまうから、全部違うメーカーのテレビをわざわざ集めて(笑)
私:そんなに!? テレビお好きだったんですかねえ……。
|| 味園のスロープについての分析。
私:あれ? ビル正面の味園のシンボルとも言える地上から 2階と3階につながるスロープってまだないですね。
石垣があったり、砂利がしかれて橋がかかっていたり、この頃の味園ビルの玄関は、純和風な感じだったんですね。
60年代の味園ビルの玄関から奥に架かる橋。
日本の遊興のための古い建物ってよく橋が架かってて、橋のこちら側が現世で、橋の向こうが浮世という考え方があるって聞いたことがあるのですが、この橋もそんな意味が込められていたりして。
現在の味園ビルの2階と3階につながるスロープ。味園ビルのシンボルとも言える。
今のスロープも、そういうふうにスロープをのぼった先が浮世って考えたら、ますますロマンがありますねぇ、味園ビル……(妄想)。
私はいつか結婚するなら、このスロープでウェディングフォトを撮るのが夢です。
この斜めのカッコいい柱が、私大好きなんですけど、
スロープを少しのぼって振り返った位置から撮った写真。(現在の味園ビル)
この柱が60年代ではこの位置だから……
岩が転がってるところに今の2階と3階につながるスロープができたってことか。
こうして60年代の味園ビルと、今日撮った味園ビルの写真を見比べると……
2階と3階につながるスロープは、完全に外付けということが、わかりますね!
スロープを外につけて、壁に穴を開けて、2階のスナック街、3階のホテル・サウナ部分にアプローチした! これもすごい大改装ですね!!
A子さん:味園ビルって2階、3階、4階もそれぞれゆるやかなスロープになっていますよね? それってなんでなんでしょうね。
私:私も気になってました。それも社長のデザインなんですかね? このゆる~いスロープも味園ビルの魅力ですよね。
味園ビルの2階、3階、4階。それぞれゆるやかな傾斜がかかっている。
K田課長:ああ、それはね、このビルの構造のせい。
私:そうなんですか!?
K田課長:昔のユニバースをよーく見てみると…
ステージが見やすいように、ステージから客席うしろにかけて実はちょっと傾斜がついてて……
A子さん・私:ホントだ!!!
K田課長:この床が今は2階の床となり、ここから柱と壁を立てて3階、4階を作ったから、自然とゆるいスロープになったんよ。
A子さん・私:なるほどー!!!
私:はーー!!! 長年のなぞが突然解けました! 60年代のユニバースの残り香が今のスロープに残ってるなんて……。めちゃくちゃロマンチックやん…… 味園ビル(泣)。
|| 踊り子さんたちのペントハウス探訪。
模型の保管されているひみつの倉庫をあとにして、次に私たちが向かったのは、かつてユニバースの踊り子さんたちが使っていたお部屋。
ホテル味園のツイートでも紹介されていましたね。今は使われていない当時のまま残る彼女たちのペントハウスを、懐中電灯を持って探検しました。暗くて写真を撮っていないため、ここからは音声だけでお楽しみください。
私:おじゃましま~す。(小声)
K田課長:暗いから足元気をつけてね。
入口入ってすぐのダイニングキッチン。
私:あ!このキッチン!!
A子さん:Twitter に載せてたの、このお部屋のなんですよ。
ペントハウス内のキッチン(ホテル味園のツイートより)
私:ここを昔、ユニバースの踊り子さんたちが使ってたんですか?
K田課長:そもそもは社長が住むために作ったみたいやけど、その後踊り子さんたちが使ってはった。
A子さん:奥の部屋にも行ってみますか。
懐中電灯で照らしながら奥の部屋に向かう。
廊下右手一面が収納、左手に2部屋個室がある。
私:着物を入れる収納がある!(廊下の収納にて)
A子さん:お部屋の入口もアーチになっててかわいいですね。K田課長、入口のまわりのこの金物何ですか?
K田課長:カーテンみたいなのがついてたんじゃないかな?
私:タッセルをひっかけるフックがあるからカーテンですね、たぶん。
A子さん:壁紙かわいいですね。チェックの。
私:かわいい……。こんな壁紙今はないですよ。この個室も踊り子さんたちが使ってたんですか?
K田課長:うん。住んでた時期もあるんちゃうかな。
私:造り付けのクローゼットとか、収納スペースしっかりあっていいですね。このお部屋の花柄の布クロスもかわいいな。お花のところがもこもこしてて。
突き当りの部屋へすすむ。
私:このお部屋がいちばん広いですね。色んなものが床に転がってます。
K田課長:ここをいちばん最初は社長が使ってたんやと思う。
A子さん:なんかキラキラしたのが落ちてますね。
K田課長:ああ……それは雨漏りで天井がだめになって落ちてきてる。
私:こうやって懐中電灯で天井を照らしたら、キラキラ光ってきれいですね。昔よくあった砂壁みたいな素材なのかな。奥の台に並んでる大きな穴は何ですか? さっきの踊り子さんの個室にもありましたよね。
K田課長:これは植木鉢をはめ込む用の穴! 窓際にね。
私:なるほど! 窓台ですか、ここ!(現在窓は合板で完全にふさがれている状態。)そんなところまで作り込んでるんですか。収納の建具とかもしっかりした造りですよね。社長のお部屋ってかんじです。
K田課長:この床に転がってるのは、壊れてるけどたぶん「あんま機」だね。
A子さん:どうやって動くんですか?これ。
K田課長:この椅子の横の丸いので動かして位置を調節して……
A子さん:手動ですか?(マッサージしたいぐらい)疲れてるのに?
K田課長:いやいや、位置を調節するのだけ手動で……(笑)
私:ゴリゴリするところは、電動なんですかね? どこかで見たことあるような… これまたレトロですね。
このタイプのマッサージ機と思われる。(ホテル富貴 HP より)
ダイニングに戻る。
私:スポーツ新聞がいっぱいある! 一応平成の新聞ですね。曙が優勝していますね、いつだ。
A子さん:Twitterに載せたマーガレットとか出てきたのもここですよ。
私:今の天皇陛下と雅子さまが婚約されたときの記事もありましたね! ホテル味園最終日のフリマで売っていたお宝もここにあったものですか?
最終日のフリマの商品の一部(写真提供:神尾一成さん)
A子さん:いくつかそうですね。235さんのレコードプレイヤーもここで踊り子さんたちが使ってたんですよ。
私:あのコ! ずっとここにいたんですね~!!!
ホテル味園のフリマで買ったもの ①
— 235 (@235s) 2019年10月2日
ナショナル製
ポータブルレコードプレイヤー
びっくりするぐらい安かったけど、
電池でも電源コードでも使える代物。
なんかかわいいしかっこいいし、
すでにめちゃくちゃ気に入っている。
昨日はこのコで浅川マキと井上陽水を聴いた。#ホテル味園 pic.twitter.com/FlKQGxdv4V
A子さん:そうそう! K田課長が動作チェックして調整くださってたんですよ。
K田課長:微妙に回転がズレてたから、なおしておいたよ。
私:わあ! ありがとうございます。あのレコードプレイヤー、すごく気に入ってて毎日使ってるんですよ。
ナショナル製ポータブルレコードプレイヤー。自宅で稼動している様子。
昭和のユニバースの踊り子さんたちが、この部屋で使っていたものを、こうやって受け継ぐことができたなんて、とても光栄です。(泣)
味園ビルはずっと大好きですが、今日見学とお話を伺って新たにわかったことがたくさんあって、まだまだ知らないことだらけだなと思いました。味園ビルの歴史や建物についてもっともっと知って、記録したいです。
K田課長、A子さん、今日は本当にありがとうございました。またお話聞かせてくださいね。
(第一回 味園タイムトラベルおしまい。)
◆参考文献◆
- ホテル味園のツイート(※2019年10月までで現在は削除済)
- 月刊ビル特別号(2011月7月22日発行)発行・編集人/BMC
◾️ホテル味園のZINE 今春完成予定(たぶん)
ただいま絶賛制作中。
愛しの #味園ビル にある #ホテル味園 が営業終了すると聞いてから、何度か泊まりに行ってはお部屋の間取りと寸法をメモしている。これはあとで清書してホテル味園のZINE作るつもり
— 235 (@235s) 2019年9月27日
家から20分のミナミのはしっこにあるお城 🏰✨
もっとはやく泊まりに来ればよかったな…
もっかい泊まりに行くけどね pic.twitter.com/m6hWOC8Ck7
◾️味園ビルについて書いたおととしの記事。
◾️好きなバンドが味園ユニバースでライブした日のレポート。