作品のうらにある物語が好きだ。

 

大阪に帰省すると必ず行く喫茶店がある。

若い夫婦が、金沢の名物純喫茶を移築して、去年大阪にオープンした喫茶店だ。

ひとつだけ残っていた割れたクリームソーダのグラスを復元したレプリカをわざわざ作ったり、庭から発掘したレシピで幻のプリンアラモードを再現したり、かたちも味も継承されていて、夫婦の喫茶店への愛を感じる。

自家焙煎しているブレンドの味も好みだし、丁寧な仕事もお店の雰囲気も大好きで、すっかりこのお店のファンになってしまった。

 

最近は、いいなあ… と思うお店や作品を、じぶんよりずっと若い人が作っていたり、若い人を尊敬することが増えたり、仕事でも若い人に教える立場になってきたりで、年を取ったなあ… と感じることが多くなった。(今、脳内でウルフルズの  “僕の人生の今は何章目ぐらいだろう” が自動再生中…)

 

今日もそのお店に行って、今日はクリームソーダ(イチゴ)を飲んだあと、ブレンドを頼んだ。

カウンター席で、マスター(わたしよりずっと若い)が、丁寧にドリップするところをついつい眺めてしまう。

 

マスターがブレンドを持ってきてくれたあと、まだ背後に気配を感じた。

 

「あの… 聞いてもいいですか?」

 

… と、マスターにはじめて話しかけられたので、カップに近づけた手を止めた。

若い人と話すときは、いつも緊張してしまう。

 

「はい…」と応えると、

マスターにわたしの iPhone ケースを指しながら、

 

「この絵って、切手にもなってますか?」

 

と聞かれた。

 

「切手になっているかどうかはわからないですけど、3年前くらいに中之島クリムト展やってて、巡回もしてたので、そのときに切手になってたのかもです……。」

 

と答えると、

 

「あっ、ちょっと待っててください。」

 

と言ったマスターが、裏に行って、戻ってきた。

消印のついた丁寧に切り取られてとってあった切手を見せてくれて、(こういうところも丁寧だし、こういう人だろうなあ…)と思った。

切手は2019年のもので、クリムト展を記念して作られたものではなく、予想は外れたけど、

 

クリムトさんて方が描いたんですね……。いい絵ですよね。」

と言ったマスターに、ググったクリムトの絵をいくつか見せながら、

「このケースの絵とか、この時期の絵は金箔が散りばめられてて、“黄金の時代” って言われてて、女性の絵が多いですけど、クリムトは結婚してたことはなくて、でも絵のモデルの女性とはみんな関係があって、最高15マタくらいしてたらしいです。」

と言うと

「すごい… めっちゃモテるいい男だったんですね。」

「いや、そうでもないんですよ、全然イケメンじゃないしハゲてるんですけど、ハハハ…」

 

↑ わたしのコミュニケーションスキルでは、若いマスターとの会話は、ハゲのところで終わってしまったけど、マスターが「いい絵ですね」と言ってくれた『接吻』に描かれているエミーリエちゃんは、クリムトのなかでも特別な存在だった。恋多きクリムトだったけど、エミーリエちゃんがモデルの作品がいちばん多いし、クリムトの最期の言葉が「エミーリエを呼んでくれ」だったくらい。

エミーリエちゃんはクリムトの死後、クリムトとの手紙を全部処分して、2人だけのものにしたらしいし、エミーリエちゃんにとってもクリムトは特別な存在で、クリムトの死後は生涯独身を貫いたらしい。…… というところまで、マスターに話したかったよ。

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そういう物語が、作品の裏側には描かれていて、そんな物語を展覧会や本で読むのが好きだ。

 

オリジナルドレスコーズの作品にも、あの4人のバンドの物語があって、

もうすぐリリースされるドレスコーズのアルバム『戀愛大全』は、10個の恋愛の物語が描かれているけど、そのアルバムの裏にある、今この時代と、作家の、なんでこの作品ができたのかという物語も、未来に遺ったらいいなと思う。アルバムたのしみだな。

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オリジナルドレスコーズ

 

今日は札幌タワレコでのインストアイベントだった。

写真見たけど、しまやせた?

 

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金沢の名物純喫茶の庭から発掘した幻のプリン・アラモードの復元

 

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夏に飲んだクリームソーダドレスコーズ『聖者』のジャケ