『ジャズ 』4曲目 “チルってる” の元ネタは、ファイン・ヤング・カニバルズの “JONNY COME HOME” という曲だ。
去年9月の磔磔ライブの前日に収録した京都のラジオでも、しまはこの元ネタ曲を聴かせてくれた。
しまは割と元ネタを公言するタイプで、そのおかげで私は大人になってからも多くの名曲に出会い続けられている。
しかし “チルってる” の元ネタは、めずらしく知っていたのだ。
なぜかというと、トータス松本が2003年に発表したカバー・アルバム『TRAVELLER』に収録されていたからだった。10代の頃このカバーアルバムを聴いて、60年代のR&Bやソウルミュージックに夢中になった。
だけど “JONNY COME HOME” のカバーだけはあんまり好きじゃなくて、
いつもこの曲だけとばして聴いていた。
『TRAVELLER』初回盤についていたトータスのセルフライナー・ノーツにはこう書かれてある。
ファイン・ヤング・カニバルズ! たまらない!
彼らの音楽は、ソウル好きのツボをビシビシと突いてくる。
80年代の曲なので、他にくらべてちょっとサウンドが浮いてはいるが(でもこの音!なつかしいでしょう)、どうしてもやりたかった曲。
彼らもエルヴィスの「サスビシャス・マインド」をカバーしているし、名曲を受け継いでいくということは、とても大切なことだ!
この曲だけ浮いて聴こえたのは、60年代の曲が多い『TRAVELLER』のなかで、唯一1985年の曲だからだった。
でも、去年しまがラジオでかけてくれたときは、(めちゃくちゃカッコいいな……)と思ったのだ。
それはたぶん時代が今、そういうムードだからだと思う。
そして、平凡さんの影響でもあると思う。
↑ 平凡さん
平凡さんは、TAKING HEADS 『STOP MAKING SENCE』のデヴィッド・バーンの “meme” を引き継いでいる。
『STOP MAKING SENSE』も、はじめて観たときはそのよさがわからなかったものの、『平凡』が発表された頃に観ると、急にどハマりして何度も再生してしまった。
『STOP MAKING SENSE』(84年)と “JONNY COME HOME” (85年)は、どちらも80年代の作品で「熱さ」がなく、“チルってる” 。『ジャズ』とならべて聴いてもまったく違和感がないくらい、今この時代のムードとよく似ていると思う。
しかし、トータスのカバーの “JONNY COME HOME” は、チルってない。
オリジナルとトータスのカバーとでは、ボーカルの温度差を感じる……。『TRAVELLER』に収録されている他のソウルフルなナンバーやウルフルズの曲よりはまあおとなしめだけど、魂揺さぶる男トータス松本の「熱さ」はどうやってもたぶん冷めない。
“JONNY COME HOME”も、“チルってる” も、どこに行きたいのかなにがしたいのかわからず、その時代をなんとなく“チルってる” 若者のムードがよく映されているが、
トータスのカバーだと、
「おい!ジョニー! どこでチルってんねや! も~…… はよ帰ってこいよ~。」
と歌っているように聴こえる。(意訳)
『ジャズ』のしまのボーカルも、アルバム全体を通して熱さがなく、“チルってる”。
人類が滅亡するというのに、特にわめいたりもせず、きゃんきゃんも言わないし、たまにやるお得意の美輪明宏さん系の歌唱も今回はなく平熱だ。曲によっては、亡霊のような声でも歌っている。(亡霊の声聴いたことないけど……)
これ、たとえばもし…… “チルってる” を、 THE BAWDIES の ROY が英訳カバーしたとしたら、ファイン・ヤング・カニバルズとトータスぐらいの温度差が生じて、同じ現象がおこるのだろうか……。
いつか、ドレスコーズ with B でROYボーカルでのカバーをみてみたい……。(しまはとなりでチルく踊ってて。)
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『TRAVELLER』と『ジャズ』は、さらに共通点があり、両アルバムとも、最後の曲だけ奥野真哉さんがピアノとアレンジで参加されている。
そして、『TRAVELLER』のホーン隊 Black Bottom Brass Band(BBBB)のYASSYさん(Tb)、KOOさん(Tp)、IGGYさん(T.Sax)は、毛皮のマリーズの名盤『ティン・パン・アレイ』(2011年)、そして渋谷公会堂での一夜限りの『ティン・パン・アレイ』完全再現コンサートにも参加されている。
さらにこのふたつのアルバム(トラベラーとティンパン)は、今はなき一口坂スタジオで録音された。
(“JONNY COME HOME” のKOOさん(Tp)の完コピはすごいと思う。ミュート使いとか、間とか、オリジナルをめちゃくちゃ研究されていると思う。)
『ジャズ』は、ジプシー音楽や 2tone SKA 、ニューオリンズ・ジャズ などなど、いくつもの国や地域の歴史ある音楽を継承しているだけでなく、“もろびとほろびて” や “人間とジャズ” のように、最新の音楽の手法を用いて制作された楽曲と混在している。
『ジャズ』というアルバムを1枚聴くだけで、いろんな国や時代を旅しているような気分になれる。
“Bon Voyage” という曲があるように、『ジャズ』の裏テーマは「旅」なんじゃないかと思う。
1985年の名曲が、2003年の『旅人』(『TRAVELLER』)という名の作品でカバーされ、今年生まれた最新の音楽『ジャズ』の元ネタとなった。80年代を映した名曲が、時代を超えて受け継がれ、その音楽が今、またこの時代を映していることにロマンを感じる。
旅人たちが旅先ですれちがうように、音楽という旅路で、音楽家や演奏家たちは共にひとつの作品を遺すためにめぐりあい、そしてまた次の作品へと旅立つのだ。