超大型の台風24号が接近する土曜日の大阪千日前。
昭和な歓楽街を歩きすすむとあらわれる
朱色の大きなビル。
まだ明るい時間なのに、キャバレーの入り口からはすでに長い列が伸びていて、この辺り人たちも観光客らしき外国人たちもみんな、行列に目をやりながら通りすぎていく。
小雨が降り出し、歓楽街にぽん、ぽん……と傘が咲きはじめた頃、いよいよキャバレーが開店。
朱色のビルに行列がぞろぞろと吸い込まれていく。
地下へと続く赤いビロードのらせん階段は、異次元への入り口。
きらびやかなシャンデリアをくぐると
目の前に広がるのは大理石のダンスフロアとステージ。
それを眺めるように配置された別珍のソファー群。
電飾が輝く樹木に、天空に浮かぶ無数の惑星……
たどりついたのは巨大な宇宙空間。
そう、ここは……味園ユニバース。
この非日常な宇宙空間に見惚れて写真に残すお客さんたち。
今夜ここで、あと十数分もすればはじまるショウは、
前野健太×ドレスコーズ ≪ざくろ≫ ツーマンツアー・ファイナル。
かつて、キャロル、ピンクレディー、和田アキ子が出演したという伝説のステージに、ドレスコーズが、志磨遼平が登場する夜がついに来た。
元老舗キャバレーの味園ユニバースが、ライブ・イベントホールとして営業形態を変えるというウワサを聞いたのは、毛皮のマリーズの解散が発表された2011年のことだった。
解散までに一度でいいから毛皮のマリーズをユニバースのステージで観たかったけど、その夢は叶わなかった。
ステージには既に、ドレスコーズのバンドセットが準備されている。
ファイナルのトップバッターは、ドレスコーズ。
客電が落ち、SEが流れる。
ステージにド派手な照明と電飾が灯る。
登場するメンバーのシルエット。
EGO-WRAPPIN'、赤犬、ザ50回転ズ、キノコホテル、ROLLYさん… 数々のバンドの名演を観た、この味園ユニバースのステージに……
つ・い・に!!!
ラメ入りの赤いアイシャドウを塗りたくった、おバカな衣装の志磨遼平登場!!!!!!
だめだ……、出てきた瞬間、どのバンドも越えてしまった……。
まだ一言も歌っていないのに……
今まで観た誰よりも、しまがいちばん味園ユニバースに似合っている!!!
聴こえてくるドラムのリズムに、なつかしいギターの歪み……
曲はまさかのー…… “コミック・ジェネレイション” !!
こんなのって、こんなのって……
(メジャーデビューした頃の)毛皮のマリーズじゃないかー!!!!!!
突如、2010年へタイムスリップ!!!!
叶わなかった夢が突然叶う。
演奏、上手くなったね。毛皮のマリーズ(泣)。
バカみたいに音はでかいのは、昔と変わらない。
ギター&サックスは福島健一(ケンさん)。
ドラムは高円寺のキース・ムーン、菅大智(スガさま)。
ギターはTHE NOVENBERS から、ケンゴマツモト。
ベイス、有島コレスケ(ぴょんさま)。
メンバーみんなの、毛皮のマリーズとMARIES MANIAへの愛を感じる演奏に、1曲目から泣いてる…… 。
そして2曲目は、 “もあ”ーー!!!
アップテンポでのっけからたたみかけてくる!!!
しかも『オーディション』からの選曲!!!
マリーズでも、ドレスコーズでも、しまはユニバースが似合う……(泣)。
“贅沢とユーモア” もやっちゃえばいいのに。
≪贅沢とユーモアで すぎさる時間 この街に嵐が吹くのも知らないで≫
なんて歌詞も、(台風24号が接近中の)今夜の気分にピッタリなのに!
そして今回のツアーで特筆すべき点は、まず、
ケンゴマツモト(from THE NOVEMBERS)のギターがエロい。(←ほめてる)
ドレスコーズ史上ぶっちぎりでいちばんエロい。(←ほめてる)
もう、顔がエロい。(←ほめてる)
そんな本日のドレスコーズ。
(↑ 写真はしまのツイッターから拝借。撮影は森好弘さん。)
“Ghost” で客席はその名の通り、ダンスホールと化した。
……あのウワサの、味園ビルのエレベーターのゴーストもここでいっしょに踊ってたりして。
なんちって。
楽屋で女抱いてきたのかなってぐらいエロいギター(←ほめてる)で、ガンガン踊り狂うお客さんたち(と味園ビルのゴースト)。
ケンゴマツモトのギターのエロさは外人レベル(←ほめてる)。
高円寺のキース・ムーン(スガさま)に、ぴょんさまのベイス、そしてケンさんのサックス&ギター。
バンドの編成がほぼジャパンツアーのローリング・ストーンズ。
スーツのジャケットを脱いだしまのシャツは、まさかのフリンジ付き。長い手足、髪をくしゅくしゅしながらステージを駆け回って歌う姿は、完全に外タレ。ボビーというより、ミック・ジャガーやん。
ここは70年代後半の味園ユニバース。わたしはドレスコーズという海外バンドの来日ライブを観にタイムスリップしてきました。(そんな気分。)
100年でも待つから、いつか戻っておいで!
という歌詞も、今夜はSF映画のラブシーンのようだわ…… 。
なんて素敵なセリフなの…… 。
高円寺のキース・ムーンのスガさまによる、スガさまの名刺代わりの “ゴッホ”。
なつかしさも感じないぐらいしっくりきていて気が付かなかったけど、スガさまのドラムとしまのラップのツーショットは、オリジナル・ドレスコーズ最後の、あの豪雨のステージ以来だ。
そうか、わたしはひさしぶりにドレスコーズのステージでスガさまのドラムを聴くのか。
オリジナル・ドレスコーズの曲は、丸山康太山中治雄菅大智の演奏で脳内にインプットされているから、ほかのミュージシャンが演奏するのを聴くとそれはそれでまたちがって聴こえておもしろいし、名曲だから毎回素晴らしいと思う。
でも今日は毛皮のマリーズや、しまぼっち期以降のドレスコーズの楽曲が、スガさまのドラムでこんなにちがって聴こえることにびっくりしているし、
いちばん好きなドラマーの演奏で好きな曲を、しかも味園ユニバースで聴けるなんて、やはりエモい。
スガさまのバスドラとコーラスではじまる “ザ・フール” なんかもそうだ。
ぼっちのバカな人の歌だけど、なんて美しくてやさしい音楽なんだろう。
ユニバースで聴くとまるで、極楽浄土にいるみたいだ。
味園ビルのゴースト、成仏できたかな。
そして、このツアーの “ハーベスト” がとてもいい。
実ったね 的な名曲 “ハーベスト” は、このツアーにぴったりじゃないか。
2013年『バンド・デシネ』のレコ発ツアー(KICKS TOUR)のあと、しまがブログ(『日本語のドレスコード』)に、セミファイナルの大阪公演に「両親が来ていた。」と書いてあったのを読んで、
ご両親の前で、自分のバンドでこんな歌を歌うなんて素敵だな。なんか結婚式みたいだな。いい息子だな。と思ったおぼえがある。
今日もソファー席に、観にいらしているご両親の姿があった。
そんな “ハーベスト” のギターソロも例外なく、エロい。
ケンゴマツモトの宿泊先のホテルで裸のブリジッド・バルドーがベッドに寝そべって待っていそうなくらいエロい。(←ほめてる)
エロいけど、めちゃめちゃ愛があるケンゴマツモトのギター。
この曲のギターソロを弾いたケンゴマツモトの名は、わたしが好きな “ハーベスト” の歌詞へと化した。
いいなあ、結婚式。
いつか結婚するなら味園ユニバースで結婚式を挙げたいなあなんてずっとあこがれているけど、もしそうなったら自分の式で “ハーベスト” を聴きたい。(予定はない。)
『バンド・デシネ』は人生の節目や、たいせつなシーンに聴きたい曲ばかりだ。
わたしが人生の最後に聴きたいのは “シネマ・シネマ・シネマ” の丸山康太のギターソロだし、葬式でも “シネマ・シネマ・シネマ” を流してほしい。それははじめて聴いたときから今もずっと変わらない。
それに、どれだけのキッズが、“ゴッホ” や “トートロジー” に勇気づけられただろうか。
オリジナル・ドレスコーズが遺した『バンド・デシネ』とは、そういうアルバムなのだ。
そして、《きみは とても きれいだよ》と歌うきみがきれいだよ、しま。といつも思う。
わたしは前日の名古屋ではじめて前野健太という人の歌を聴いた。
前野くんの歌も、彼のバンドの演奏もすごくて、ドレスコーズでは観ることができないステージだと思う。
前野くんにも、ドレスコーズみたいなステージはできないと思う。
それぞれが持っている魅力はちがう。
(だから観に来ているお客さんは見た感じ、どちらのフアンなのかなんとなく区別がつく。)
でも、“あん・はっぴいえんど” を聴くと、ふたりは似てるなあ、とも思う。
≪歌は道づれ≫ なところとか。
かっこいいところもかっこわるいところも全部お客さんに見せて歌うところとか。
ふたりとも俳優も経験しているし、文筆家という肩書もあるけど、音楽がなかったらダメな人だろうな、音楽があったから見つけてもらえたんだろうなと思うところは共通している。
ドレスコーズが演奏する “ビューティフル” は、演奏されるたびにいつもちがった気分にさせられる。
それはMARIES MANIA にとって特別すぎる曲だから。
でも今夜の “ビューティフル” は、「そのまま」だった。
歌っているのはドレスコーズのしまで、演奏しているのは毛皮のマリーズではない。
でもスガさまのドラムでそれは、タイムカプセルをあけたようによみがえる。
歳をとっても、何年たっても、青春の美しさは永遠。
たいせつな曲がどんどん増えていっても、あの甘い季節は毛皮のマリーズとわたしたちだけの宝物だ。
“ビューティフル” に続いては、“愛に気を付けてね” で、もう今日はしまのベストアルバムみたいなセットリスト。
towaie…… “愛に気をつけてね” をライブで聴くのはひさしぶりだ。
たしか、去年の11月26日の「ドレスコーズ with B」以来。1年ぶりか。
髪のびたね、しま。
ホントいつもいい仲間に恵まれているよなあ、この人。
わたしに毛皮のマリーズをおしえてくれたのは、THE BAWDIES だった。
(くわしくは前回のブログをドウゾ→味園ビルに恋して。 - 音楽とコーヒーと旅と建築)
そんな “愛に気をつけてね” で、
味園ユニバースは全電力を使う。
(あの台風21号の影響による停電を、電気のありがたさを、今は完全に忘れている大阪。)
ステージとステージサイドの全電飾ギラギラ。
ダンスフロアの全惑星(中は蛍光灯)点灯&ぐるぐる。
全ミラーボール点灯&ぐるぐる。
お客さんはガンガン(踊る)。
このゴージャス空間のどこから観ても、しまはユニバースが似合う。
前で観たいから、ドレスコーズのライブに行くといつも、入場してからライブが終わるまでずっとステージ前をじっと動かずに過ごすけれど、
今日は、じっとしていられない……!
しまのライブをこんなふうに、お酒を飲みながら、自由に踊りながら観るのははじめてかもしれない。
まるで、味園ビルに通っていたあの頃みたい!
(くわしくは前回のブログ参照→味園ビルに恋して。 - 音楽とコーヒーと旅と建築)
エモい。
エモいかエロいしか言ってないな、このブログ。
しまがひとりで、アコースティックギターとハーモニカで静かに歌いはじめる“晩年”。
前日の名古屋でも、先週の磔磔でも気が付かなかったのに、突然、
毛皮のマリーズ『Restoration Tour 2010』磔磔公演で “晩年” を歌うしまがフラッシュバックする。
周りが民家のため、21時までに音を止めないといけない磔磔。
アンコールの後、もう一度ひとりでステージに戻ってきたしまは、マイクも通さずに生音のアコースティックギター1本で “晩年” を歌ったのだった。
若いバンドの、しかもメジャーデビューのレコ発なのに、ひとりぼっちで歌うしま。
その不思議な光景が目と耳に焼き付いているのは、ひどくいい歌だったから。
≪でもぼくは どうしても 人を憎む事ができない
だからずっと 自分を憎んで立っていよう ≫
あの頃も今も、志磨遼平ってそういう人。
バンドが変わっても、世界がどう変わっても、きっとそれは変わらない。
時空を超えてやってきた8年前の磔磔のしまが今日のしまと、ユニバースのステージでまさかの共演。(※わたしの脳内の話です。)
今日は、ひとりぼっちじゃない。
ふたりのしまが歌う “晩年” を、外タレドレスコーズの壮大な演奏でさらにバックアップ。
…… 宇宙ってすごい。
いや、名曲はカンタンに時空を超えるのだ。
いくつもの名場面で魅了し、ほぼSF体験のドレスコーズのステージは幕を閉じた。
ゴージャスなトイレ(壁も床も大理石!)で化粧をなおしていると、トリの前野健太&ビッチボーイズのステージが聴こえてきた。
バーカウンターに寄ってダンスフロアに戻ると、前方にドリンクを持ったぴょんさま。そのさらに前方では「日本一エッチなギタリスト」(てしまがメンバー紹介してた)もジム・オルークさんの演奏に観入っている。
さっきまでステージで演奏していたバンドマンが、同じ客席でライブを観ている。
対バンイベントのこういうところもすごく好きだし、なんかひさしぶりだ。
前野健太&ビッチボーイズのステージが終わるとすぐに、前野くんがまた出てきて、しまをステージに呼びこむ。
アンコールでは、ツアー初日の本番5分前に完成したという、前野くんが作詞、しまが作曲の新曲 “男と女(仮)” をふたりで披露するのだけど、今日は曲がはじまるまでが長い……。(ずっと前野くんが、男と男についてと、しまとぴょんさまのBL話(妄想)について延々と話している。)
ケンさんとケンゴマツモトが、まだ曲がはじまってないのに急に客席から裏に戻っていった。あとで石橋英子さんとぴょんさまのツイートで判明したけど、このときとっくにアンコール終了予定時刻を過ぎていたようだ。
20分以上しゃべってようやく、“男と女(仮)” を歌う気になった前野くん。
『ぼくらの音楽』の椎名林檎と向井秀徳みたいに(しま談)、ふたり向い合って歌う。
(This is 向井秀徳なだけに。これな。↓)
メールでしまに好きな言葉を聞いて前野くん書いたという歌詞がとてもいい。
新宿とか、カフェテラスとか、スマホとか、進化とか、退化とか、泳ぐ、とか…… 登場する生物は小鳥ではなく魚。(よかった。)
しまが書いた曲も、しまの今までのどの曲にも似てないし、成熟していて、せつない。
なんか懐かしいけど、あたらしい。今この時代をよく映しているいい曲。
今ここでジャケット撮ってシングルにすればいいのにってぐらい、このツアーにぴったりで、味園ユニバースに似合っている。
前野くんは、≪男と女なんて、もう古いかな しまさん。≫ と歌うけど、しまは「前野くん」とはつけて歌わない。
仲がいいのかどうかよくわからない、独特の関係性のふたり。
ダブルアンコールでは、客席からお題の言葉を募って、即興のセッションで歌う。
しまが曲を作っているところをはじめて見る。
目には見えないけど、ふたりの濃密なエネルギーのやりとりをビシバシ感じる。
きっと今、しまの脳細胞はビュンビュン活性化していて、すごいことになっている。
『君の脳内をみたい』。
ダブルアンコールのあとも、何度も前野くんに連れ出されて出てくるしま。
もう、何回出てきたかわからない。
そのたびにふたりで即興の歌を歌う。
ほぼむちゃぶり。これ、最終的にどうやっておさめるつもりなんやろう……
しまがドラム(8ビート)で、前野くんがギターと歌のバージョンもあった。
結局このツアーの最後に演奏されたのは、即興ではなく、しまが歌う “スーパー、スーパーサッド” だった。(前野くんがドラム。)
ひとりぼっちの歌でツアーをしめくくるしま。
“ザ・フール” にしても、“晩年” にしても、このツアーでしまはよく、ひとりぼっちの男の歌を歌っていた。
前野健太と志磨遼平。
ふたりとも言葉の人。
ふたりとも音楽にすべてを捧げて、ひとりで芸術と向き合う人。
今までドレスコーズが対バンしてきたバンドとはちがった意味で似ているふたりの旅 ≪ざくろ≫ ツアーでは、お互い相手のそういった本質的なところを見て、刺激を受け合い、影響を与えあっているのだろうか。
だから、今までのツーマン・ライブを観ていたときとは全くちがう気分なのかな。
いろんな時代の名場面を見てきたけど、今は2018年で、『平凡』と『三文オペラ』、そしてあのすばらしい「PLAY TOUR」を経たここがしまの現在地なのだ。
(……ってPLAY TOUR のファイナルでも思ったわ。PLAY TOUR のレポはやく書こう……)
ふたりのとてもいい旅が観れたのも、このタイミングで前野くんがしまを旅に誘ってくれたのも、きっとお星さまのめぐり合わせだと思う✨✨
(↑ 写真はしまのツイッターから拝借。撮影はたぶんしま。)
(おしまい)
磔磔のレポートはこちら。↓
京都磔磔における室内楽のドレスコーズ - ドレス・喫茶・建築